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飼育✻販売のお仕事
第6章 初出勤は人間のお世話?!
「お先に大きい方が、五、六、七千円と、おあと百、二百、三百、三百一──…」
「新崎さん。小銭は確認しなくて良い」
「そうなんですかっ。ではでは小さい方のお返しです」
りつきの手から女のそれへ、数枚の小銭が渡っていった。
水草と金魚の餌を求めて来店した女はいかにも近隣住民らしく、トレーナーにハーフパンツ、つっかけという格好だ。穏やかな人となりを絵に描いた感じのかんばせが、乾いた笑いを押し殺していた。
「お品物です。いつも有難うございます」
「こちらこそ有難うございます。新しいスタッフさんですか?」
「はい、今日から入っております」
「そうですか。頑張って下さいね」
「有難うございます!金魚さんによろしくですー」
小動物の嚶鳴にも優る快活な声が、三十路を越えたばかりと思しき女を見送った。
明るく手を振るりつきの隣で、里子も静かに頭を下げる。
「レジの流れはこんなところ。一人で入っている時は、お会計を済ませてからお品物の梱包ね。生き物をお買い上げのお客様は、籠をお買い上げになる場合そこに入れて、それ以外はそのままのお渡し」
「はい」
「じゃ、掃除の続きをしましょう。モップがけは分かったでしょ。次は雑巾」
里子が乾いた雑巾を渡すと、りつきが棚を拭きにかかった。
「待って新崎さん」
「何ですかぁ?」
「雑巾……水道で、濡らさなくては」
「おおっ、こうしていると水が湧いて出てくるんじゃないんですねっ」
顔の表情に合わせて色を変える大きな目が、マジシャンの仕掛けでも発見した具合にきららいた、小振りの身体がバネにでも弾かれたようにして、棚を離れて蛇口へ急ぐ。