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飼育✻販売のお仕事
第26章 再会〜感傷は知られざる悲願の〜
* * * * * * *
物心ついた頃、真正は既に鈴花の日常にいた。人当たりが良く温厚で、とりわけ目立たない少年だった真正は、六つ歳下の少女を気にかけ、鈴花が懐けば懐くほど、遊びも勉学も面倒を見た。
町内に子供は数多いた。そうした中、鈴花は関心の向かう先の近い同世代の少女らの誘いを断ってまで、また、真正も小学生という年頃特有の悪ふざけを共有していた仲間達を無下にしてまで、二人は二人の時間を重んじた。
孵化したばかりの雛は初めにまみえた相手を親鳥だと刷り込まれるらしい。鈴花の興味や信頼は、真正一身に傾いていた。
新崎という名前の重みを認識し出したのは随分あとだ。
いつしか鈴花のませた感情は、親切な兄分を対象にするようになっていた。
二人が恋人と呼び合う仲になるまでは、歳月と年端の問題だった。
鈴花は十五歳、真正が二十一歳の夏、二人は改めて互いの続柄を確かめ合った。長期休暇の旅先の高原で、鈴花が先に想いを告げた。友人連れで出掛けた旅は、帰路では恋人達の甘い記憶になっていた。
二年は瞬く間に過ぎた。
受験を控える半年前まで、鈴花の日常は幸福で、呑気で、夢のように満ち足りていた。事実、二年という歳月は、その期間こそ実は幻で、一瞬にも似通っていた感覚こそが事実であった可能性を疑るまでに呆気なかった。