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飼育✻販売のお仕事
第27章 真相、そして真相
「私、やっぱり……」
「待て新崎!」
「離して下さいっ……鍵くらい壊せます!!」
「お嬢様!!」
「っ……」
志穂の腕を振りきって、りつきは車を飛び出した。こんなところで聞こえようはずのない声が、りつきの前方を遮った。
「さぶ……ちゃん……」
伊澄と揉み合いになったのだろう、三郎の、相も変わらずスーツにしては奇抜な配色の背広の襟は皺だらけになり、ネクタイはだらしなく綻んでいた。
「茅中は……かつて新崎家の家政婦でした。旦那様に恨みをお持ちです」
「何故、分かるの……」
「お嬢様に悪影響を与えたことが、何よりもの証拠では?」
「──……」
いつもそうだ。浩二にしても里子にしても、りつきが真正や三郎の意に添わない思考を持つと、りつきの大事な人に攻撃的な評価を下す。
りつきは自ら「ふぁみりあ」を選んだ。里子も、新崎家の長女を貶めるつもりでりつきを雇用したのではない。
「さぶちゃんに……何が分かるの……」
「帰りましょう。この際、馬沢の馬鹿とのことは応援させていただきます。しかし、お嬢様がたかが四ヶ月共に職場で世話になっただけの女を擁護される必要はございません」
「それだけじゃない!!」
「っ、……新崎……」
認めるのを怖れていただけだ。移ろいゆく現世にいながら、そのくせ安寧は不変にある。
浩二を愛している。狂おしいほど、彼こそりつきの中心だった。
だのに遠い記憶の向こうにあったぬくもり──…その正体も胸奥から消えていたのに、思い出した途端、これだ。
否、違う。りつきが里子に惹かれたのは、里子があの家政婦だからではない。不可解なこの衝動のわけを確かめたい。
だから、今も里子に会いたい。