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飼育✻販売のお仕事
第27章 真相、そして真相



 里子がりつきの鋭い目の先を振り返ると、男の能面が夜陰にあった。

 旦那様。

 いかにもかしずくように呼んでいた時分でさえ、頭を下げた試しはなかった。

 ただ、なくした希望をもたらすりつきは、里子の生命にも等しい。まるで罪なく屠られる寸でのところで小動物が命乞いをするのと同様に、里子の口先は祈念を望む。


「お嬢様の話をお聞き下さい。……彼女にも、貴方にとって鈴花のような人がいるんです」…………



 誰にも愛された試しはなかった。肉親の顔さえ覚えがない。

 馴染んだ愛は愛のかたちをした金銭的な取引きに紐づく性交渉──…まばゆい記憶ばかりを満たしていた鈴花でさえ、端から真正だけを見ていた。

 一方的に執着し、独善的な贖罪を重ねた末に残ったものは、世間が罪過と定義づけるものを犯した刻印だ。


 至高だ。人間が最も安らぐ状態、それは他人に支配されるところにある。


 里子は、掃き捨てられていた。


 いつかりつきの話していた、幸福に備えた幸福の貯蓄は、一握りの人間だけがいだくものだ。彼女のように善良で、清らかで、あまねくものを受け入れられる器量を備える、人らしからぬ人間だけが。

 りつきの笑顔だけは曇らせるべきでない。


「里子さん、私──…」

「馬沢さんと、仲良くね」

「っ…………」

「里子、待てっ……あたし、本当はお前に──」


 今にも癇癪をぶり返しかねないりつきの手を振り払った。志穂の声が追いかける中、警官達が里子を引き連れてゆく。


 パトカーのシートに乗り込むや、扉が、里子の聴覚から甲高い泣き声を断った。
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