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飼育✻販売のお仕事
第27章 真相、そして真相
「りん、大丈夫?」
「…………」
頷けるだけの気力はない。
りつきの手のひらに、未だ里子の手の質感がこびりついて離れない。
仄かにぬるい、透徹な新涼がまとわりつく深更に、りつきは最後に里子の手を捕まえた。
いつだったかテレビの中の作り話で見た通りの光景だった。
世界が寝静まるのをものともしない、色消しなヘッドライトが夜陰を殺め、手錠をかけられた犯人が、パトカーへ引き連れられてゆく。
布越しに握った指先は、愛おしすぎた。
里子の痛みは、今やりつきに移ろっていた。
彼女が今でもどこかに存在している。この事実が耐え難い。
「里子さんの手……好きだった」
「──……」
「触れられただけでどきどきするの。握ってると……幸せで壊れちゃいそうになる」
そして、…──あの質感が体内に進み入ってくる瞬間、りつきは天国より崇高な花園へ昇っていった。
「鈴花さんは、里子さんを利用していた。だけど私は、里子さんを愛している。里子さんは、鈴花さんのために苦しんでたの。鈴花さんの死を受け入れられないで、実際、あの女は遠い田舎でのんびりと暮らしていたのに……里子さんは、十四年もずっと、鈴花さんのために……」
十四年前の自分自身でさえ許せない。里子が許しても、りつきはりつきを許せない。
あの時、もっと想像力を働かせていられたら、或いは里子の今は変わっていたかも知れない。
そこにりつきがいられたかは分からない。それでも里子は、今よりは穏やかな日常の中にいられたのではないか。
去り際、里子はりつきに浩二と仲良くするよう言った。
あれが本心だと信じたくない。もとより信じてなどいない。
「…………」
里子に、会いたい。りつきを動かす衝動は、いつでも里子がもたらしていた。