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飼育✻販売のお仕事
第28章 贖罪
* * * * * * *
志穂が里子に出逢ったのは、新崎家に勤めて随分経ったあとのことだ。
年配の家政婦が退職したのと入れ替わりにして、里子は屋敷に入ってきた。
志穂は新人教育の役目を辞退した。真正の雇用した新たな家政婦は、志穂と同い年だという。だから、話もしやすい。それが若奥の考えだったが、同い年であれ何であれ、新入りが志穂に怯えるのは目に見えていた。だが、若奥は指示を取り消さなかった。
そして新人──…里子は、志穂の予想を裏切った。
(お前、家事ナメてんの?)
(あー、もう、アイロンは良いから草むしりでもやってろ、あたしの分担のところもな)
志穂の口癖は定着した。それだけ里子の家政婦としての技量は最悪だった。
いわゆる高学歴の秀才馬鹿は、社会に出てから一年近く、新崎家と懇ろな家の令嬢達と遊んで暮らしていたという。家事と言えば、家の掃除くらいしか覚える必要もなかったそうだ。
志穂がいくら呆れても、怒鳴っても、里子は朗らかだった。そればかりか口の利き方も馴れ馴れしい。夕餉にまで誘う始末だ。
やがて志穂は、里子を後輩として見るのに困憊した。
里子が一人立ちする頃には、二人は友人と呼び合うようになっていた。志穂は出勤が楽しくなった。
一年近く、平穏な日々が続いていた。
なだらかな時の流れは、ともすればあの頃の志穂には永遠にもとれていた。
こまごまとした問題も──…割り切っていた。
ところがある休日のことだ。気まぐれに出かけた街先で、志穂は信じ難いものを見かけた。