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飼育✻販売のお仕事
第28章 贖罪
それが十四年前の顛末だった。
鈴花との穏やかな月日を断った、密告者は志穂だった。
里子は志穂のしたためた手紙を折り畳んだ。面会窓口のガラス越しに、志穂の憔悴した面持ちがある。
「悪りぃ、里子。……」
さしたる衝撃も憤慨もない。
志穂は、時々、里子の知らない女の顔をどこか遠くへ向けていた。
思いつめた表情、開きかけては閉じた唇。志穂は、里子の最初で最後の理解者でありながら、その本心は強硬な壁が覆っているようなところがあった。
志穂が里子に何を伝えたがっていたか。何を伝えかねていたか。
真相が知れた今、いっそ胸中は晴れやかだ。
「許せとは言わねぇ。こんくらいしか、……里子には、出来ねぇけど」
「ダメ。志穂、私、事実を──…」
「んなことしたらシメんぞこら!!」
「っ……」
警官らが里子達に振り向いた。
里子は彼らに片手を向けて、干渉を拒む。
「…………」
「頼む」
「…………」
「頼む、里子……」
志穂の切れ長の目許は、しおらしい潤沢を抑えていた。
絶望と希望とがひとところにある。真摯な友情、或いは家族愛とも呼べる光が、そこには垣間見られるかも知れない。