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飼育✻販売のお仕事
第28章 贖罪
* * * * * * *
「りんりん」
清澄な朝の空気くらいには澄んだテノールが、感覚ばかりが逸りながら駅へ急いでいたりつきの足を引き止めた。
秋空にぼける金髪に、穏やかな人となりを示唆している、中性的な顔かたち──…装いこそ簡素にせよ、浩二はこうした住宅街を背にしていても、絵になっていた。
「王子!どうしたの?」
「りんりんこそ、こんな早くに」
「──……」
あっ、と、微かな悲鳴がりつきの喉をこぼれていった。
浩二の右手が、りつきの手首を捕らえていた。
恋人を慈しむ握力とは違う。飼っていた小動物が逃走を図り、彼女の意思も慮らないで捕まえたがる飼い主のそれだ。
「あんな事件のあとだろう?仕事中も、りんりんのことで頭がいっぱいで……遅くなってごめん、やっと、休みがとれたから……」
「…………」
「どこ行くの?」
「コ、ンビニ……」
「近所へ行くのに、リュックなんだ?」
「…………」
りつきの背には、里子と別れたあの日の夕まぐれのウサギがいた。
コンビニエンスストアに出かけるくらいであれば、スマートフォンとコインケースを握っているだけだ。浩二は、りつきの習慣を把握している。
「行かないで」
「え……」
「りんりん、茅中さんのことどう思ってたの?」
「…………」
りつきに微笑むために存在していた目許の向こうで、先日まで恋人と呼んでいた少女を暗い失望がねめつけていた。
浩二はりつきを見澄ましながら、目を合わせようとしていない。