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飼育✻販売のお仕事
第28章 贖罪
「痛っ……王子、離……し……」
ろくでなしの真正も、一つだけ正論をりつきに押しつけていた。
浩二はひょうろく者だった。視野の狭い、想像力に欠陥した人間だった。
「りんりん、忘れさせるから。僕が必ず君を幸せに──…」
浩二の腕が、りつきの身体を引き寄せる。胸板が、りつきのセーラーカラーを飾るリボンに迫る。
「っ…………」
「見苦しいわ」
「…………?!」
りつきの身体が宙に浮いた。否、腕による拘束がとけたことで、ひとえに身軽になったのだ。
オーデトワレの馨しさに潤んだメゾが、りつきを正常な時の流れへ逃した。
腰まであるブロンドの巻き毛の女が、量産店の洋服を粋に着こなす王子の腕を押さえていた。
優しげな奥二重の目許に煌めく黒曜石に滲むのは、底知れない拒絶の色、それからたとしえない情感だ。
「テメェ……」
「りつきから離れて」
「元はと言えばお前が!!」
「警察を呼ぶわよ」
「っ、…………」
…──犯罪者に言われたくありませんね。
りつきでさえ聞いたことのない浩二の声が、あらん限りの激情を吐き捨てていった。
「…………」
幻か。それとも奇跡か。
どちらでもない。里子は、昨日釈放されていたはずだ。志穂が身代わりになった。
「里子さん……」
「良かったわ。散歩へ来て」
「有り難うございます」
「それじゃ」
「あっ、待って下さい……待って……」
りつきは、里子の前方を阻んだ。
「会いにきて下さったんじゃないんですか」
「散歩と言ったはず」
「じゃあ、少し……お時間下さい」
「──……」
身勝手だ。
浩二を傷つけて、昔さんざっぱら我執をぶつけた里子に、また、りつきは甘えようとしている。