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飼育✻販売のお仕事
第29章 ペットになりたい
里子はりつきの私宅に上がった。
伊澄は毎日のように職探しに出かけているらしい。
里子が同情にも測れる感情をいだいていたこともあった女は、結局のところ逞しかった。
例に漏れなく伊澄が不在の二人暮らしの空間は、閑静だ。
りつきの淹れた紅茶は、白んだ空の覆った冷気に冷えた里子の身体をやわらげた。
ミルクを溶かした苺のそれは、まるでりつきを聯想する。甘酸っぱく、可憐で、まろやかに渋い。お湯も沸かせなかった令嬢は、いつの間にこれだけの風味を引き出せるようになったのか。…………
里子は志穂のことをりつきに話した。
りつきは、ことさら顔色を変えなかった。天衣無縫な令嬢は、その欲望に従順だ。里子との再会を全身で好ましがっている。そのくせ眉を下げるのは、けだし里子を思い遣ってのことだ。
(里子さんは悪くありません。志穂さんは、それだけ里子さんが好きなんです)
(恵果さんや皆さんも、ご自分で判断されたことです)
里子の話がひと段落着くと、今度はりつきがカップとソーサーをテーブルに置いた。
おおよその見当はついていた。
この六日間、りつきがどんな風に暮らしていたか。先刻の一悶着からしても、穏やかでなかったのは明白だ。
だが、話を聞かなければ里子はりつきを理解出来ない。
話を聞いている間の猶予は欲しい。