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飼育✻販売のお仕事
第29章 ペットになりたい



「里子さんのこと……私は、皆さんとは違う意味で大好きです」

「──……」

「脱がされたり、触られたり、……恥ずかしかったし、いやだった。だけど嫌いになれませんでした。恥ずかしいのは、私にとって、多分、里子さんは高嶺の人だから。私のこと、知られるのが怖かったんです」

「怖い?」

「こんな、子供っぽい……色っぽくもない身体……それに、私は昔──…」

「りつき」


 里子は左手をりつきに伸ばして、濡れた唇に指をとめた。

「しつこいわ。そのことなら気にしていない。それに、彼女は私にとって関係のない人だったの。私、見る目がなかった」

「里子さん……」


 身体中が空洞になった。

 独房に押し込められたその夜は、泣いても泣ききれない喪失感を不眠の中で持て余した。



 平気と言えば嘘になる。

 あれで分かった。他人を愛せもしない人間に、他人の愛を得る資格はない。

 鈴花は里子の居場所だった。鈴花の慈しむ小動物らに里子は里子自身を重ねていた。



 だが、善悪はいつでも紙一重だ。



 世間のまことと呼ぶものが蒙昧で、悪と位置づけるものがまことであることがある。


 里子こそ過ちを犯していた。偏見で鈴花を追いつめていた。

 それでもりつきがここにいるから、鈴花とのことを笑い飛ばせる正気もある。


「里子さん」

「っ……」

 柔らかな指が左手を捉えた。里子の片手がりつきの手のひらの中でとろけかけ、指先が、りつきの唇から覗いた粘膜の愛撫に慄く。


 ちゅ、ちゅ…………


 まるでケーキを試食している雑食の小動物だ。

 りつきのキスは、里子の指先、手の甲に、間断ない呼び水を散らす。


「ダメ……りつ、……」


 胸が高鳴る。

 こうも単純なときめきを、何故、りつきは里子にもたらすのか。
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