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飼育✻販売のお仕事
第29章 ペットになりたい
「里子さん」
おざなりに衣類にくるまっていたりつきは、乱れたシーツに身を投げ出していた。
「私も弱くて、里子さんも弱いです。そして間違ってる」
「…………」
里子はりつきに寄り添って、布ごとその身体を抱き締めた。
「お父様も、心の弱い人間です。さぶちゃんも、鈴花さんも、弱くて自己中心的だから、自分の信じてるものを押しつけてなくちゃ、安心していられないんです」
「…………」
「私も家出しました。帰るつもり、ありませんけど」
りつきは続けた。
おりふし身じろぐ少女からこぼれる閨事の余韻が、里子の首筋、胸をくすぐる。
「人間が弱いのは、一人になっちゃいけない生き物だからだと思うんです。里子さんの仰るように、他人は他人に支配されてる。支配している……個人を否定します。もし、私達に道理の正解が備わっていたら、非難や反撥はなくなります。そうしたら、強く生きられたかも知れません。強くいられたら、誰かと一緒にいなくても、きっと平気です。他人を求めようともしなかったかも知れません」
「…………」
「だけど、それって味気なくないですか。神様が私達の善悪を曖昧にしたのは、楽しいことばかりを味わわせてくれないのは、私達を苦しませるためじゃない。拠り所になる、理解し合える人を求めたがるよう、調整した結果です」
「りつき……」
「私は、里子さんを探していました。お父様と分かり合えなくて、いつも異常だって言われて、それでも私を見てくれる人を探していました。伊澄ちゃんも、話を聞いてくれる人を必要としている。……だけど私達は逃げたいんじゃない。私達を否定するもの達から守って欲しかったのでもありません。たとえ同じ考え方じゃなくても良い、ただ、ありのままの私を好きだと言ってくれる人の側にいたかったんです。私にとってそれは王子だったけど、でも、王子は私に、家を出るきっかけをくれただけで……」