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飼育✻販売のお仕事
第7章 飼われるさだめ
気持ち悪い。
それは、嫌悪を超えた憎悪だった。憎悪を超えた生理的苦艱。
いつからこんな腫瘍を抱えていたのか知れない。いかなる弾みに患部が蠢き出すのかも。
この肉体そのものが、生来こうした性質を備えていたのか。
汚れてゆく。存在するあまねくものが、初めから異臭を閉ざしていた。
足の踏み場がない。息をつける場所さえなくなる。
あの瞳が汚れてしまう。
ひと握りの愛おしいものが、──……。
ともすれば骨髄まで砕かれよう悪心が、里子に冷えた熱をもたらしていた。
気持ち悪い。憎い。無意味なもの。異物。
消えてなくなっ──……
バゴッ…………
「痛っ」
鈍い痛みが滲み広がった。
弾かれるように壁を離れた利き手を庇って、里子は左手のひらに包んだ拳を見下ろす。
「──……」
「ここの壁、セメント粗いから気を付けろって」
閉店後のフロアを背に、志穂が扉枠に凭れかかっていた。
「壁が……どうかしたかしら」
里子はエプロンとボトムを畳み、紙袋に詰め込んだ。
ウエストに届く長さのあるブロンドの巻き毛に櫛を通し、ラッセルレースに切り替えてある袖に覗くパールのブレスレットのチャームの位置を整える。
志穂が更衣室に踏み入るや、ゴールドの天使がきらめく里子の右手を持ち上げた。
里子の疼痛の残った手が、裏返る。
「あーあ、すれてんじゃん。バンソコ貸して」
「さっき、鳥につつかれただけ。大丈夫」
「壁に八つ当たりしてんの、めっちゃ見たぜ」
「──……」
里子は手を引き抜いて、バッグから絆創膏を抜き取った。中指と薬指、血の滲んでいるところだけ手当てする。