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飼育✻販売のお仕事
第7章 飼われるさだめ
「志穂」
「なーに」
街は明るい。
閉店間際になってもねばる客をようやく帰した路面店は、未だ閉店業務に勤しみ、飲み屋はこれからが活気づく。
とりわけ幅広の車道は、自家用車が行き来していた。
思い返されるは、今日一日の情景か、それとも遠い来し方か。…………
「里子。新崎って、まさか」
「偶然よ」
「そっか」
「だけど」
「…………」
「新崎さんを、この手で滅茶苦茶にしてやりたいとは思う」
「おっ、タイプか」
「違うって!」
初恋をからかわれた少女のように、里子は志穂をねめつける。
笑い交わしながら仕事をして、はかなしごとに花を咲かせて帰路につく。
昔は、こんな友人いたろうか。
小動物など飼った試しもないのに、ペットショップを立ち上げたいと言い出した。そんな里子の気まぐれにまで、志穂はいやな顔一つしないで助力した。
志穂の言葉を借りるのであれば、里子がタイプの女にまみえたとする。彼女は許してくれるのだろう。
「まだ、ダメ」
「…………」
「私が店を始めた理由。……それをくれたのは、あの人だから」
愚かな未練だ。見苦しいと、身勝手だと、今更指摘されるまでもない。
あの女性をあの場所に置き去りにしてしまったなら、里子は息の仕方も失う。
ただ過ぎてゆくだけの日々だった。罪に罪を重ねながら、得る資格もなくした安らぎのために懺悔している。
支配に焦がれ、人間達を家畜同然に繋いだ空間で、里子自身がただ一人の人に自ら寄り添い留まってきた。
この世のどこにもなかった正常は、十四年の時をかけて、愛をなくした空洞に、築いてくるより他になかった。