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飼育✻販売のお仕事
第8章 少女給餌〜りつき〜


「…──っ、……」


 少女漫画の住人を絵に描いたような恋人の顔が、りつきの目蓋の裏を掠めた。


 りつきは浩二と枕を交わしたことがない。

 結婚するまで純潔でいれば、女は幸せになれる。

 交際を始めて半年ほど経った頃、りつきはそうした両親の信念を浩二に伝えた。
 周囲はラブホテルだの性具だの、淫らな話題に興じていた中、りつき達だけが黙秘の不要なカップルだった。


「いやっ……やっぱり……店長!店長助けて下さい!」

「ダーメ、ここ、地下二階よ?上階に聞こえるわけないでしょう」

「っ……。私は、……」

 下着だけの姿になっても、りつきは毅然と萌奈を見る。

「私は……王子と結ばれるまで、誰ともそういうことはしません」

「王子?」

「あ、給仕さんはっけーん」

「っ…………!!」


 りつきの耳が、キィンと音を立てて慄いた。

「あ……ああ……」

「君はダメ」

 萌奈がガラス戸に振り向いた。オスの一体が貼りついていた。

「この子、店長のお気に入りみたいだし。オスはしっしっ」

「オレもマズ飯食ったぜ?」

「店長は筋金入りの男嫌いよ。この子をまおと同じ扱いなんかしたら、貴方、売られる前にクビかもね」

「っ……マジかよっ」

「──……」


 男が悔しげに立ち去った。

 結局、萌奈は目玉焼きだけを口移しで食べさせることを約束させ、りつきの衣服を整えた。


 商品達の士気が冷めるまで、りつきは萌奈のケージで過ごした。

 聞けば、里子は滅多に躾の業務をしないらしい。ペット志望の面接応募者が受けるという査定も、里子は志穂に一任しているという。
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