この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
飼育✻販売のお仕事
第9章 商品調教〜伊澄〜
ごく自然に口舌を交わしている一家が、昼近くのコンビニエンスストアにいた。
学校の創立記念で休みらしい、中学生と見られる姉弟はカジュアルな私服に身を包み、明るげな両親に連れられて、デザート売り場を吟味していた。
滑稽だ。
血縁というえにしに引き合わせられた団体が、互いにどこまで理解しているかも分からないで、子供は親の、親は子供の声に摯実に耳を傾けている。
当たり前にしているのは当人らだけだ。
「戻りました」
獣達の住処に帰り着くと、両腕に食い込んでいたレジ袋から解放された。
伊澄は里子に領収書を渡す。傍らで、りつきの目が気まずそうに泳いでいた。
「結野さんサンキュ。んじゃ、雑費の計算は里子頼むな。私らはこれ撒いてくるわ」
「ええ、お願い」
「本当にごめんなさいでしたぁ」
志穂がレジ袋を担いだ。伊澄は残った二袋を持ち上げて、彼女に付いて地下へ降りた。
地下一階のフロアに出ると、六十代くらいと見られる婦人が檻を見回していた。
伊澄はワゴンを隅に置いて、いらっしゃいませ、と一声かける。
目尻の下がった双眸が、穏やな人となりを湛えた。
「申し訳ありません。トラブルが発生しまして、給餌が終わっておらず……」
「良いのよ。ここは冷やかしだから、店員さんは気にしないでやっておくれなさい」
「有難うございます」
伊澄は器に盛ったスープとパンをトレイに移し、一つ一つのケージにそれらを差し入れてゆく。
水と茶は洗面器に常備してある。二度目の餌を与えられた人間達は、食前の常套句を呟いて軽く手を合わせると、器に貪りつき出した。
ぬちゃっ、かぷ……ずっ……ずず…………
四つん這いになってパンを噛みちぎる者、座り込んで顔だけを皿にうずめる者、床にこぼれたスープをじかに舌で拭う者──…身体を覆う機能をほぼなさない端切れをつけた人間達は、思い思いに食事を進める。