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飼育✻販売のお仕事
第9章 商品調教〜伊澄〜
「……となると、恋愛及び結婚生活の練習相手をお求めになってるんですね。ゲイではない、と。好ましいのは、口が堅く聡明で、やや中性的なメス。ペットとしての契約期間はご子息のお見合いまでの二ヶ月間」
「ええ、ただし中性的でなくて良いわ。荒療治よ。とってもおしとやかな、愛らしい娘を選んで頂戴」
「こちらの売り場で十分では」
「婚約者がヴァージンなの。練習台も新品が良いわ」
伊澄は婦人を高額売り場のブースに通した。
ここの餌はスープだけだ。それから少量の催淫剤。
伊澄は手早く給餌を済ませた。
「こちらの知歳(ちとせ)はいかがでしょうか。旧家の出で、生け花、お茶、奏箏など、一通り嗜んでおります。或いは、そちらの古暮(こぐれ)も。風俗店に勤務していた時分、一度も膣内を使うことなく、数々のお客様の不感症を治してきた実績があります」
広々と開いたケージとケージの間を縫って、伊澄は選りすぐりのメス達を説明してゆく。
プレートにある品質表示は限られている。その分、従業員らは販促を円滑にするために、なるべく多くの情報詳細を記憶する。
特に訳あって高額商品ブースに並べられた人間達は、初回売上金に加えて月々の使用料も、全て「ふぁみりあ」の懐に入る。ものによっては、数年単位の使用料を回収せねば店側のマイナスになるという。彼女らにのみつく仕入れ値だけでも、最低限把握しておく必要があった。
「知歳という子は、──……。っ……」
婦人は三十代半ばの中肉のメスの顔を見るや、目の色を変えた。
あられもないところを隠しもしないで、しずしずと客に見られることを業務としていた知歳の顔にも、刹那戦慄が現れた。
「ぁ、…………」
「まぁ、でもダメかしら。お嬢様教育を受けた娘にしては、このメス、スープをこぼしているわ」
「……片川、さ──…」
「店員さん。こういう時、ペットはちゃんと反省するの?」
知り合いだ。
直感が伊澄にささめいた。
もっとも、片川と呼ばれた婦人と知歳の間柄など、従業員の意するところではない。