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飼育✻販売のお仕事
第10章 VIP会員限定セール〜見切り品〜
女は屋敷に務めていた。
聡明な若奥と堅実な亭主、それから二人の愛の記念品の身辺は、多くの人間達が立ち回り、雑務や家事を切り盛りしていた。
女も例に漏れなかった。あるじに仕え、そして若奥を慕っていた。同時に裏切ってもいた。
『うっ……ぐす……ひっく……』
『またこんなところで泣いて……風邪をひくわ、──…』
『あぅっ……びぇぇぇぇっ……っっ』
のどかな住宅地にひっそりとある小さな森は、さる富豪の所有地だ。壮大な屋敷を構え、四季折々の木々や草花が景色を織り成す。
令嬢は八歳、ませた彼女は、このところ敷地内の森に出ては、人目を忍んで泣いていた。
『お母様が……怒ったの……あたしのこと邪魔だって……五月蝿いって、怒鳴るのぉ……』
『──……』
さりとてこんなところで泣かれては、草むしりが始められない。
女は辟易していた。
令嬢に目線を合わせて屈み、小さな顔にハンカチを当てる。
近くで見ると、窪みできららくビー玉は、とても澄んだ黒をしていた。白い肌だ。子供の肌など大して労わられることもあるまいという先入観が、女の中で崩落した瞬間だった。
『お嬢様は、五月蝿く……ないわ』
『ひくっ……ほん、と……?』
令嬢は女に母親との確執の原因を話した。
髪を結って欲しい。以前は容易く聞いてくれた母親が、冷たくあしらったという。
…──学校にも行かないのに。日曜よ。自分でやれば良いじゃない。
女は母親がすげなくなった事情を知っていた。だが、幼い耳に聞かせるには酷だった。
『座って』
いつも一本のおさげに編まれた長い髪。女は幼い雲鬢を、二本の尻尾に見立てて結った。大きな目に白い肌、そして二つの黒い耳は、令嬢をひときわ小動物のようにした。
それからというもの、女は草むしりを妨げられる度、子供の髪を結って宥めた。洋服のリボンを整えてやることもあった。