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飼育✻販売のお仕事
第10章 VIP会員限定セール〜見切り品〜
* * * * * * *
皐月の最終金曜日、里子はりつきに販促ポップを作らせていた。
遠くに聞こえる小動物らの嚶鳴と、ペンと紙の擦れ合う音、袖から立つ衣擦れのそれが、夕刻の事務室にしめやかな郷愁を添える。
とりどり並んだ資材から、稀に見る箱入り娘は存外に見栄えのする作品を生み出していた。
「金魚が五匹と仔猫が二匹新入荷、鳥籠の新型に、消費期限の近い餌は半額値下げ。出来ました!」
「有難う」…………
見直した。
ほんのりまるみがかった文字は整っており、まるで活字だ。一見簡単に描いたような金魚やウサギのイラストも、容易に真似出来なかろう。
「どこか問題ありましたか?」
「ううん」
「はぁ、良かった。じっとご覧になってたので、字でも間違えたかと思いましたぁ」
「上手いな、と、思っただけ」
「やった。褒められちゃいました」
メレンゲとドライストロベリーで色づけた感じのりつきの顔が、くしゃりと崩れた。
りつきを採用して二週間が経つ。業務は相変わらず不手際が目立つ。地下に並んだ人間達も、この新米従業員が世話に回ると、彼らの方が優位に立っているところがあった。
この二週間の間だけでも、里子は何度、りつきのフォローに手を焼いたことか。
手を焼くのが楽しかった。