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飼育✻販売のお仕事
第10章 VIP会員限定セール〜見切り品〜

* * * * * * *

「これで良いんですか」

 折り畳み式の長椅子を並べる作業を進めていた途中、まおが唐突に口を開いた。

「新崎さん。給仕やシャワーはしてくれますし、小動物のフロアでだって、頑張ってると思います。けど、……」

「そうね。彼女は貴女とは違ったタイプの潔癖性で」

「…………」


 りつきの場合は潔癖性と呼べる以前に、無知で奥手だ。

 それに引き換え、まおは人間を躾ける現場となると、割り切っている。自称あばずれも顔負けであるまで淫らに振る舞い、オスもメスも顎で動かすのだ。
 仕事は真面目にやりたいだけです。いつか彼女はそう言った。生来の摯実な性格が、閉鎖的だった性の概念をも覆すパラドックスを招いたようだ。



 まおが片側の椅子の脚を立てた。

 里子ももう一方の脚を立て、二人、最後の長椅子を荷台から下ろす。

「中学生の頃からお世話になっていたペットショップのこんな一面を知った時は、引きましたけど。ウチは母が動物好きで、父なんて趣味が興じて田舎に出てったくらいです。そんな昔、母が父に請求した離婚の慰謝料は、幼い娘達の養育費ではなく、新しい小動物を迎えるための資金と飼育費。弟も私も、そんな環境にいたら、動物がいるのは当たり前になっていました」

「面接で話を聞いた時は、衝撃的だったわ。ペットのための部屋が三つもあるなんて」

「驚いたのは、お互い様です。……人間が娯楽の道具にされること、納得しません。だけど「ふぁみりあ」の理念を支持しています。仔犬や猫を養殖して、売れ残ったら量産機か殺処分。多くのペットショップが小動物をもの同然に扱ってる中、ここは長くて老衰まで面倒が見られる。お客様は動物達の見目よりも、相性や健康面を重んじる。従事したい店でした」

「…………」


 人間をもの同然に扱って、小動物の権利を守る。


 当然だ。

 人間の価値など家畜のそれにも及ばないのだから。
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