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飼育✻販売のお仕事
第10章 VIP会員限定セール〜見切り品〜
* * * * * * *
VIP会員専用出入り口は、「ふぁみりあ」の裏手に位置する。
凄寥の夜闇の間道に、盛装したセレブリティ達が一斉に押しかけていた。
里子はりつきを玄関に立たせ、参加券を回収する役目を与えた。
りつきのにこやかな迎えに高所得者達は相好を崩し、里子や志穂、伊澄、まおの誘導で、地下二階の会場へ向かう。
「いらっしゃいませ。参加券をご提示下さい」
「こんばんは。はい」
「有難うございます」
「お嬢さん可愛いわね。誰かの妹さん?」
「いいえっ、新人です」
「そうなんだ。ごめんなさい。頑張ってね」
「はい、有難うございます!」
「いらっしゃいませ、お客様。会場にご案内いたします」
「おおっ、貴女も新しい方?カッコイイ……」
「有難うございます」
ショップ店員のごとき風情の女が、伊澄に付き添われて地下へ降りてゆく。
焦げ茶の巻き毛を胸に流し、艶やかなナイトドレスでめかし込んだ女は、名前を春日恵果(かすがけいか)といったか。無名の子会社代表取締役の長女で、VIP会員の条件の一つである所得額は満たなかったが、里子は彼女の熱意を見込んで、入会を許可したのである。
「いらっしゃいませ」
「ご無沙汰です、店長さん」
「いつも有難うございます、大河原様。本日の会場は地下二階でございます。お荷物お持ちします」
「有難う、……ああ、いよいよね。わくわくするわ」
里子は老夫婦からキャリーケースを預かって、彼らを奥へ案内する。
常連客のはかなしごとに付き合いながら階段を降るにつれて、朗らかなソプラノが遠ざかっていった。