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飼育✻販売のお仕事
第10章 VIP会員限定セール〜見切り品〜
「有難う」
里子はカクテルグラスをとって、中身を一気に飲み干した。
パステルピンクの長い耳を揺らした給仕が、傾きかけたトレイを慌てて掴んだ。
「店長っ……お仕事中に大丈夫なんですかっ?」
「少しくらい酔った方が良いでしょ。新崎さんも飲めば」
「…………」
こぢんまりした世界をさぞ美化して映してきたろう黒曜石が、銀白色の艶を浮かべる十数の水面に視線を落とした。
里子とりつきの目の前を、間断なく客と従業員らが行き来している。
薄闇からこぼれてくるのは嬌音、呻吟、二本足の獣の匂いだ。
爽やかなザクロのフレーバーを注ぎ込んでも、里子の肌はじっとりとした質感がつきまとう。
里子はトレイを取り上げて、りつきと人混みを離れた。
「新崎さんのお友達、すごいわね」
「ええ、まぁ」
「接客、代わって」
「えっ?!」
「当然でしょう。分からない質問をされた時は、声をかけてくれれば良い。これからもここで働くつもりがあるのなら、地下の仕事も覚えてもらわなくては」
「──……。そう、ですけど、……」
焦れったい。これだからゆとり世代の従業員は、根性が養われていないのだ。
以前の里子であれば、けだしそうした評価をしていたはずだ。
だのにこうしてりつきと並んでいると、たとしえない懐かしさが胸を苛む。
二週間前に雇ったばかりの、労働経験もなかった少女だ。
何を思い、何を考え、何を好いてどんなところで生きてきたのかも知らない。その奇抜な風姿がどのようにして形成されてきたのかも。
他人も同然の少女に対し、だのに里子は初めて会った気がしていなかった。