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飼育✻販売のお仕事
第10章 VIP会員限定セール〜見切り品〜


「私、……」

 りつきの唇が綻んだ。

「付き合っている人が、いるんです」

「っ……」

「彼とは、一度も身体を重ねたことがありません。結婚するまでしないでおこう、と、約束しているんです。だから、私は出来ることなら、……」


 ああ、まただ。

 虚無の既視感が里子の中で蠢き出す。


 衝撃を受けているのも馬鹿馬鹿しい。今しがた耳にした類の告白は、掃いて捨てるほど溢れ返っている。


「…………」


 りつきはただの従業員だ。




「どんな人?」

「えっとぉ、王子様です。趣味が合って高二の時から仲良くて、今年で交際六年目ですっ」

 パステルピンクの小動物が、完膚なきまで疑いなくはしゃぎ出す。

 馬沢浩二。りつきが恋人と呼ぶ青年は、伊澄も交えて友人ぐるみで外出や食事も共にしている仲らしい。



「そんなに優しい人なら、平気ね」


 よく知らない少女の短いウエストを、里子は引き寄せた。

 従業員の服装に、トップスにおける指定はない。パステルピンクとラベンダーの幾何学の袖を撫で、里子は恋人に対するように、りつきの手首を片手に収めた。

「何故、私が新崎さんに売り物の躾を断念したか分かる?」

「うーん……えと、うーん……」

「タチの女にモテそうだから」

「私がっ?!」


 ただし、里子は例外だ。


 りつきの顔が、声が、仕草が──…憎い。





 里子はトレイを持ち上げて、業務に戻った。途中、伊澄にりつきのサポートを言いつけた。



「聞いちまった」

「志穂っ」

「里子何か企んでねぇ?それか出来の悪いやつほど可愛いってやつ?」

「別に」


 里子は志穂と隅に外れた。

 柵に収めた商品も、残すところ五体ほどになっていた。

「言ったでしょう。私が、彼女を滅茶苦茶にしたい……と」


 安心させて、信頼させて、突き落とす。


 大切に飼われていた小動物でも、ある日突然、段ボール箱に入れられて、冬空の下に投げ出されることはある。

 懐こく愛らしい少女には、安らぎなど必要ない。
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