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飼育✻販売のお仕事
第10章 VIP会員限定セール〜見切り品〜







 伊澄は里子の指示の意図を考えていた。


 客がりつきに実演を要求しても、阻止しろ。

 それは、まるで好意を寄せた女を独占したがる女の鬼胎が紐づくようではなかったか。


「…………」

「結野さん」

「っ、……」

「どうかした?疲れた?」


 恵果の淡く赤らんだ顔が伊澄を見上げた。

 年のほどは三十代後半、労働経験より恋愛経歴の方が遥かに上回る社長令嬢だ。見るからに上質なナイトドレスと、スワロスフキーにしては幻想的な炫耀を散らせたブレスレットの青いストーンが、その生活ぶりを物語っていた。


「すみません。春日様、商品がお決まりになりましたらお呼び下さい」

「待って。貴女に選んでいただきたいんだ。次は男が良いわ」

「──……」


 恵果はバイセクシャルだという。ただし美形専門だ。

 美形専門の面食いが、どういうわけか伊澄を気に入ったらしい。
 入場時、伊澄が誘導についてからというもの、名前を訊ねて趣味を知りたがり、恋人の有無だのどういう人間がタイプかだの、質問責めだ。そして伊澄の手が空く度に、まとわった。


「お客様。オスでしたらあちらの田口が精通しております。少々お待ちを」

「そっか。じゃ、メスを見ましょ」

 伊澄の腕が、シルクとランジェリーだけに包まれた柔らかなものにうずまる。

 ヘアオイルの甘い匂いが、やおら伊澄を挑発した。


「…………」

「店長と、おんなじ匂い」

「え、……」

 マスカラに濡れた睫毛が上がった。無邪気な目が意味深長に微笑んでいた。


 酔っている。…………


 伊澄が直感した直後のことだ。


「っ…………」


 双腕の一方がほどけてゆくや、恵果が口を押さえて伊澄に体重を押しつけた。


 今度は故意的な重みではない。


 伊澄は志穂を呼びとめた。事務室の鍵を借りて嫌がる恵果を抱き上げて、彼女を上階へ運び出した。
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