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飼育✻販売のお仕事
第10章 VIP会員限定セール〜見切り品〜
得たいものが、本当に必要であるかは甄別し難い。
安居の代わりになるだけの女であれば、不要だ。
泣き寝入りしていた一人の部屋に、家出娘が転がり込んできた。
少なくともりつきは伊澄の日々に彩りを添えた。伊澄にとって、喪失を埋め合わせるだけの女に縋りつくより意味があった。
恵果を放っておけなかったのは、従業員として、客が泥酔したのでは介抱するのが当然だからだ。
伊澄は事務室の窓を開け、無邪気な令嬢に水を飲ませた。
いつの間にか、時刻は閉場三十分前になっていた。
「飲みすぎたわ。……ごめんなさい。みっともないことしちゃった」
「いえ、……」
「自棄飲みだったの」
肌色の動物園を離れた恵果は、ありきたりな女の顔をしていた。
「母の会社の社員に片想いしてるんだ。彼は私の気持ちなんて、気づいてもいないんでしょうけど」
「お伝えになったらどうですか。社長のお嬢さんの──…特にお客様ほどの方の告白なら、断る理由はないでしょう」
伊澄はスマートフォンを操作していた。まおからラインが届いていた。
"りつきさんは面倒を見ていますので、心配なさらずー。店長も悪酔いしそうで困ってます(´・ω・`)"
診察台から、軽快な笑い声が聞こえた。