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飼育✻販売のお仕事
第11章 我が家の執事
目尻が不快な冷気に溺れて目が覚めた。
こめかみまで伝った水滴。こらえる自由もなくしていた肉体とは相反して、神経は軽やいでいた。
漠然とした夢だった。満たされていた。されどそれを支えていたのは、浮き橋だ。
無意識のもたらした生理的現象の名残を拭って、里子は寝台から起き抜けた。
女ははにかみ、男は無関心を装いながら盗み見る。里子のこの肉体をよりあでやかに引き立てる洋服の数々は、無論、人間の目を喜ばせるために揃えたのではない。人間など裸で十分だ。それでも法律という詭弁文書に対応すべく、今朝もクローゼットから洋服を選び出すと、里子はそれを身につけた。形状記憶パーマのかかったブロンドも、櫛でとかす。
顔を洗って化粧を始めて、また始まる長い一日を思う。
まだ生きている。生きているということは、期待している対象があるのだ。
自嘲した。
今日のシフトを思い起こす。りつきは休みだ。今時の女らしい侘しさが、里子を襲った。男と交際している十五も年下の少女に対して、何も求めようもないのにだ。
満たされない。何をしていても、きっと誰を愛しても、適当な女を飼い慣らしても、なくしたものは元に戻らない。
昔も同じだった。何も持ち得なかった里子には、ある女が全てだった。愛らしい小動物がつきまとっていたが、彼女は拙い人間だった。
愛に潤沢であることが当たり前の人間と、捨て置かれていることが当たり前の人間、この世にはどちらかしかいない。
里子が同情から雇用を決めた従業員は、どちらだろう。始めは似ていると思った。しかし違った。伊澄にはりつきが慰みになる。
まことに忘却された人間とは、フィリアの愛にも見限られるのだ。