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飼育✻販売のお仕事
第11章 我が家の執事
* * * * * * *
小動物らが騒ぎ立てる一階フロアの片隅で、今日突然シフトの入れ替えを願い出た従業員と、金髪童顔、ともすれば彼に「彼女」と呼ばれる彼女自身に優ってなよらかな青年が、睦まじやかに猫と戯れていた。りつき付きの執事だという男が、若い二人に付き添っている。
「整理はこのくらいで良いわ。新崎さん、客足も落ち着いていることだし、水槽の掃除を始めましょう」
「分かりました。じゃあバケツを取ってきます」
「バケツですと?!」
ネオンカラーのシマウマ柄のスーツの男が、里子らの間に飛んで入った。
見たところ五十代と思しき執事は、風采だけを見ればマジシャンだ。どこかで見かけたことがある。
彼、三郎はりつきの肩を掴むや、非行の少女を咎める目つきで口を開けた。
「なりません、りつきお嬢様がバケツなど。そんな庶民の道具は、この三郎が取って参ります」
「……有難う」
三郎が奥から戻ってくると、里子は金魚を種類ごとにバケツに移した。
空いた水槽を持ち上げて、残り二つをりつきに頼むと、またぞろ三郎が彼女の役目を買って出た。
六月の空は穏やかだ。
里子は自店の隅に水槽を下ろし、ホースを繋いだ蛇口をひねった。
「まず水槽を軽く濯いで、このスポンジでこすっていくの」
「石鹸は使わないんですか?」
「残ると毒になるから。金魚は、清潔すぎると却ってダメ。元々プランクトンや苔を餌にする生き物だから、人間の目から見て少し汚いくらいが良いんだって」
「ふぅん」
作業に入ってまもなくすると、にわかに里子の視界が翳った。
りつきの愛用の苺柄の日傘が開き、柔らかな日射を遮ったのだ。
「紫外線はお身体に毒でございます。わたくしが傘をお持ちしておりますので、お嬢様はどうぞお勤めを」
「さぶちゃん有難うっ」
里子は続けて水槽をこすった。水草や餌がとけて付着したのを流し終えると、苦戦していたりつきを手伝い、店に戻った。