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飼育✻販売のお仕事
第11章 我が家の執事
それから後も、三郎は機敏な働きぶりを見せた。りつきに代わって小動物らの水を補給し、りつきの怖がるタイプの客に応じ、売り物の餌の補充をする。犬が脚で水を散らすと、閃光のごとく床を拭った。犬が小さい子供の客に威嚇すれば叱り、亀の甲羅の汚れを指摘しそれを磨いた。
伊澄と浩二は昼下がりに帰っていった。
里子はりつきが休憩から戻ってくると、志穂と三郎に店を任せて、りつきを地下へ連れて降りた。
「王子様とお付き合いしていたの、新崎さんじゃなかったの?」
里子は地下二階の掃除を進める手を止めた。
これはただの好奇心だ。そう自分に言い聞かせていた。
「あ、そのことなんですけど──…」
簡明なりつきの話が始まってすぐ、里子は問い質したことを悔いた。
伊澄が男を愛さないのは分かっていたことではないか。それに浩二という青年は、伊澄と肩を寄せ合いながら、頻りとりつきを観察していた。
そうした中で、一瞬でも何かに縋った。三郎を欺くための三人の嘘に、里子まで自ら引っかかろうとした。
「お願いします。本当は、部屋を出たら伊澄ちゃん達は恋人の振りをやめる予定だったんです。私は王子とデートして、……けど、結局さぶちゃん、お店にまで付いて来ちゃって。さぶちゃんには、絶対に言わないで下さい」
「何故?」
「王子と会えなくなったら、私、何にも楽しみがなくなります」
りつきの無雑な小動物のごとく黒目が、甘えたな潤沢を浮かべて里子に縋る。
いっそ抉り取ってしまいたい。
美しい黒曜石を薬指にでも飾って、なよらかな皮を被った男などに傾倒した彼女自身を、この手許で慙愧させたくさえなる。
ややあって、まおが出勤してきた。
午後からペット志望者の面接が入っている。
里子はほとんど掃ききれなかったモップを預けて、まおにりつきを任せると、地上階へ戻っていった。