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飼育✻販売のお仕事
第14章 夏季休暇
「たとえ資格があったとしても、必要としない人間には売らないわ」
「何故……」
「ウチの理念に反するから。八百屋だって同じでしょう。料理する客のニーズには合っても、野菜のオブジェが欲しい客には雑貨店を勧めるべき」
「陽瑠果ちゃんは友達なんです。それは、……性処理や下働きの人はいりませんけど、彼女は私にとって不要な人じゃありません」
まおの言い分は物流の条理に反する。
需要者は単純な必要性を見出すものにのみ対価を出し、供給側は、同情だの友情だのの感情を客から引き出し、利潤を求めるものではない。
小動物達は客の目に留まらなければ永遠にケージの中で暮らす。
ペットショップで暮らせるだけ幸運だ。常に人間の支配下にある生命達は、ある場合は過度な繁殖を防ぐためのみに処分され、またある場合は毛皮や肉のために分解される。
だのに人間は運良く口舌という武器を得たために、些細なことで重んじられる。憐憫を誘うだけでケージを抜けられるというのは、アンフェアだ。
「私は、間違っていると思います」
「何のこと」
「この店がです。人間が売り買いされる……それは、望んでペットになっている人もいます。だけど犯罪です。せめてそれを望まない、たった一人でも救いたいと願うことを、店長なら分かって下さると思ってました」
「分からないわ」
「…………」
「自由を好く小動物が売り買いされて、何故、人間がダメなのか」
…──人間ほど不覊を忌まわしがる動物はいないのに。
まおが壁時計を瞥見した。
「失礼します。お疲れ様でした」
扉が閉まった。
薄い壁の向こうから、隣の更衣室の扉が開閉する音が響く。
やりきれなさが里子を襲う。巡り巡る時の中で、ある一点に、里子だけが置き去りにされた。
残ったものは後悔、慚愧、罪を重ねることでしか慰められない空白だ。
「──……」
鈴花。
その名前が声になることはなかった。
今や存在していたかも判りかねる愛を見澄まし、鈴花という名の女と過ごした時の中にしがみつくようにして、里子は遠くの小動物らの嚶鳴に耳をすます。