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穴を掘っている
第4章 理想の親子
「母さん、僕の誕生日
絶対にお休み取って下さい
僕は子供の頃から……
そんな我が儘一度も貴方に言いませんでしたね
一度くらい僕のお願い聞いてくれませんか?」
母さんにそう言うと母さんは覚悟した瞳を僕に向けた
「解った……その日はお休みを取るわ」
「母さん、ありがとう
その日は家で僕の誕生日を祝って下さい
一度……やってみたかったのです」
高級なレストランを予約して……とか
遅れた埋め合わせをするかの様に
連れて行かれたレストランじゃなく
この家で祝って貰いたかった
「母さん 我が儘言ってごめんね…」
「はる君……我が儘なんかじゃない……
今まで……誕生日に祝えなかったものね……
ごめんね……小さかった貴方に我慢ばかりさせて……」
「母さん……僕は……絵で描いた様な幸せな家庭ってのに憧れてました
『ただいま!』って言えば母さんが『お帰り』って言ってくれて……
父さんが帰ってきたら『お帰り!』って飛び付く……
そんな友達の家の様な平凡な家庭を……羨ましいと想ってました
僕の帰る家は……淋しすぎたから……」
本音を言うと……
母さんは泣き出した
ごめんね……
ごめんね……
と言い泣き出した
「母さん……泣かないで……」
「はる君に淋しい想いをさせたくなかった……
だけど……お金がないと……
はる君に不自由な生活しかさせられないから……」
何不自由なく育てるために仕事をしていた
そんな大義名分が貴方には必要だものね
「僕は貧しくとも母さんがいてくれれば良かった
………僕の世界は僕しかいなかった……」
哀しそうな母さんの瞳が……
僕に向けられる
僕は笑った
誰よりも優しく笑った
「だから母さん
18になるんだよ?僕
そんな記念する日位一緒に過ごしてよ
これが最期の我が儘だから……
最初で最期の我が儘なんだから」
「解った……その日……休むわ」
母さんは約束してくれた
一度も我が儘を言った事のない息子の……
たった一度の我が儘だものね
この先……貴方に我が儘は言わない
貴方を困らせる事は何一つ言わない
だって僕は……
その日に総てを終わらせるから……
泣いても笑っても……
その日で終えると決めてるから……