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初花凛々
第14章 水魚の交わり
_____これならもっと先へ進めそう_____


凛はそう思ったけれど、麻耶は早々と指を抜いた。


_____もう終わりなんだ……


麻耶はいつも凛のことはお見通しだが、まさか凛が物足りなく思っているだなんて気付かない。


ソファに横たわったままの凛にタオルケットをかけて、そのまま抱きしめる。


「なんか俺も緊張しちゃったよ」

「……麻耶なのに?」

「前もそんな事言ってたけど、俺ってどんなイメージなわけ?」

「……経験豊富」


凛の率直な感想。それを聞いて麻耶は、どこか遠くを見つめていた。


「豊富、ねぇ」


そうポツリと呟きながら。


麻耶はこれまで、それこそ、たくさんの女性と交流してきた。それは社内でも噂になるほどで、凛だってその噂をもちろん知っている。


けれど凛が麻耶へ抱いていた印象と、こうして二人で過ごすようになってからとでは、大分イメージが違うなと思った。
経験豊富だ、というイメージはそのままだが、そのもっと根っこの方_____。麻耶の素の部分は、意外にも優しくて。


凛は麻耶のことは苦手な部類の人間だったはずなのに_____


それなのに今は。
















凛を抱きしめてくれる、優しい温度。そしてどこか寂しげな麻耶の横顔。それを見つめていたら、凛はやはり、その唇に口付けてみたいと思った。


_____キス。


それはどれほど甘くて、どれほど蕩けるのだろうか。それを知りたくて。


けれど麻耶は、大切にとっておけと言う。


だから凛は求めない。その唇を。






「……なんか腹減ったな」

「うん」


忘れていたけれど、そういえば二人はまだ夕飯を食べていなかった。それを思い出し、どれだけ夢中だったのかと思い、可笑しくて凛は笑ってしまった。

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