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初花凛々
第16章 夏深し
うだるような季節を越えようとしている刻


凛は毎月の密かな楽しみでもある、勿忘草を訪れていた。


親友の雫と共に。


「今月はわらび餅です」


椎葉が盆に載せ運んできたのは、きなこと黒蜜がたっぷりとかけられたわらび餅と、アイスグリーンティ。凛は皿の上で柔らかな餅がふるふると静かに揺れる様を眺めた。


凛と雫は向かい合って座り、運ばれてきたわらび餅を口に運んだ。


口に入れると、それは口の中ですぐに溶けてしまうくらいに柔らかだった。あまりに美味しくて、ロクに感想も述べず凛と雫は無言で食べた。


「同窓会なんで行かなかったの?」


わらび餅も残すところあとひとくち、というところで、雫が口を開く。


________同窓会



そう、雫が言っているのは、盆に開かれた高校の同窓会のこと。


あれはまだ夏を迎える前、スーパーで偶然遭遇した雫の恋人____圭吾には、たぶん行くと返事をした凛。けれど凛は結局、それに参加しなかった。


「言ったでしょ。仕事が忙しくて休めなかったの」


本当は仕事は休みで、凛はその日予定もなにもなかったのだけれど。圭吾には行くと匂わせたが、実際には鼻から行く気なんてなかった。


当日の夜、圭吾から凛の不参加を聞いた雫から連絡をもらったが、凛は仕事のせいと答えていた。




「あと、圭吾とスーパーで会ったって聞いたよ」

「 あぁ、うん。そうだよ」







____圭吾


雫の口から出る圭吾の名前。


今ではそれを聞いても、チクっとした胸の痛みなんてものは感じなくなった。

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