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初花凛々
第18章 揺蕩う心
木の葉達が、徐々に色付ける頃


凛は二枚の紙切れを手に、胸を弾ませていた。


____オクトーバーフェスト____


その紙切れは、ドイツ伝統のお祭り、オクトーバーフェストを日本で再現したイベントのチケットだ。










「胡桃沢さん、これほんの少しだけど御礼です」


数日前、胡桃沢は営業部の加藤からそれを受け取っていた。御礼、と言われたが、何の事なのか凛はさっぱりわからない。


「ん?」

「遅くなってごめんね。ほら、前に私が休んだ時に、代わりに書類提出してくれたことがあったでしょう?」


凛はしばらく考え、あ、と思い出した。


まだ夏を迎える前____


課長に頼まれ、営業部の手伝いをした件だ、とわかった。


「いいのに、御礼なんて」

「ううん。胡桃沢さんのお陰ですごく助かったの。お陰様で、あの案件好調なんだ。須田から聞いてない?」


凛と麻耶は、普段仕事の話はほとんどしない。だから当然、凛はその案件について何も知らなかった。


「二枚あるから、恋人とか友人とでも楽しんできて」


加藤は気持ちを込めて、凛に二枚のチケットを渡した。


凛はそれを受け取って、頭に浮かんだのは雫。けれど雫はあまり酒が上ではない。オクトーバーフェストはドイツビールを楽しむイベントなので、雫は行かないかもな、と思った。


凛の頭には、雫と同時にもう一人浮上していた。


もちろんそれは、凛の良き理解者である麻耶だ。






「ねー!麻耶!」


凛は珍しくテンション高めに、麻耶に話しかけた。


「なんすか」


相変わらず一定のテンションの麻耶を見て、凛はフフッと笑った。


「これ一緒に行かない?」


凛はオクトーバーフェストのチケットを、麻耶に見せた。


「おぉ!なんで持ってんの!?」


麻耶は感嘆の声をあげた。この、オクトーバーフェストのチケットは人気で、手に入らないこともあるから。


「営業部の加藤さんから貰ったのー」

「あぁ、あの時の礼?」

「そう!」


麻耶はチケットを見て喜んでいたから、返事はオーケーだと凛は思った。____なのに。


「違う奴と行けば?」


麻耶から返ってきた言葉は、予想外のものだった。






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