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初花凛々
第18章 揺蕩う心
新山は同郷の麻耶に、時々相談していたらしい。


もう嫌がらせに耐えられない、もう会社を辞めたい、そう言って泣いていた。


「……でも辞めるのは惜しいじゃん。せっかく仕事覚えたのに、あんな奴のせいで辞めるのなんて」

「そうだよね……」

「で、異動願いを出したら見事如月とは部が離れたってわけ」


人事なのに、そんなことがあったなんて凛はまるで知らなかった。


「人事に異動してから楽しそうでさ」

「新山さん?」

「うん。とっても素敵な先輩がいるのって、会うたびに言ってきて。それ、誰のことかと思ったら、凛のことで」

「え、私のこと?」

「うん。……だから、どんな先輩かと思ってチェックしたら、すんげー可愛い女で」

「か、可愛い?」

「そ。凛のこと初めて見た時、ちょー可愛いって思った」

「なにそれ。お世辞?」

「んなわけねぇ。でも、いつも俺のこと睨んでたよな」

「なっ!睨んでないから!!」

「西嶋に惚れてたことも知ってた」

「ひぃ!」

「西嶋のこと見てる時の凛の顔、ヤバすぎたからよく覚えてる」

「ヤバイ!?きゃー!」


ヤバイってどんな顔、と、凛は恥ずかしくなった。けれどそのあと麻耶が発した言葉に、凛は益々恥ずかしくなった。


「すげー女らしくて、色っぽくて。どんな人なんだろうって……話してみたかった」


麻耶は再び、凛の頬にそっと触れた。


凛の涙は、いつの間にか止まっていた。
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