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初花凛々
第22章 秋葉舞いて
それを見て麻耶は笑いが止まらなかった。


「……馬鹿だな」


そう言って、凛の頭を撫で、抱き寄せた。


「……苦いに決まってるじゃん。こんなクソ不味いもの、よく飲んだな」

「クソ不味いってわけでもないよ。だって麻耶のだもん」


そんなセリフを吐かれ、それはどんな言葉よりも男心を擽るものだと凛は気付かない。


麻耶はたった今射精したばかりなのに、再び熱を持ったような気がした。


「……ありがと。すげぇ気持ちよかったよ」

「本当?」

「うん。凛、頑張ったな」

「ふふ。嬉しいな……」


甘だるい____、会話だけ聞けば、まるで恋人同士のような会話が二人の間で交わされる。


麻耶は凛を抱きしめながら、優しく頭を撫で続けた。


麻耶の腕の中に納められながら、凛はこれまで感じたことのない安心感を味わった。




「……私ね、いつか子どもが出来たら、今の麻耶みたいに褒めてあげられるお母さんになりたいの」

「え?」


凛はいきなり脈絡もなく、そんな話を始めた。


「たとえば100点満点のテストで80点を取ってきたら、すごいね、頑張ったねって言ってあげたい。どうしてあと20点取れなかったんだ、って、間違っても言いたくないな……」


それは凛が幼少の頃、父親にされたことだった。


凛は普段褒めてくれない父親に褒めてもらいたくて、いつも必死だった。


運動も勉学も、どんなに頑張っても満点には届かない。いつも平均60点の凛にとって、80点は快挙だった。


凛は80点の答案用紙を手に走った。家までの道のりがもどかしかった。


兄の大地に比べ、凛の足は遅い。けれども、必死に走った。


はぁはぁと息を弾ませながら、父親の書斎へと凛は駆け込んだ。


「お父さんっ!」


凛は父親に、80点の答案用紙を自慢げに手渡した。


すると、返ってきた言葉は____











「……凛」


凛の瞳からは、つうっと一筋の涙が零れ落ちた。


「……なんだろ、なんで泣いてんだろ……私」


凛のこの涙は、悲しい記憶を思い出したからではない。


麻耶の温かい腕の中、頑張ったと頭を撫でられて


嬉しくて、思わず。


「……麻耶、ありがとう」


凛が流したのは、嬉し涙だった。
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