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初花凛々
第24章 朝ぼらけ
「凛?」


どれくらいぼうっとしていたのか。麻耶に声をかけられるまで、凛は酒も口にする事なく、手の中の温められたグラスを見つめていた。


「眠くなった?」

「あ、ううん」

「気持ち悪い?」

「今日は大丈夫」


今まで酒に飲まれた凛の姿を何度も見てきた麻耶は、心配そうに凛の顔を見た。


「麻耶……すごいなって思ってたの」

「すごい?」

「うん。だってあの如月さんだよ?麻耶って、ほんとに_____」


このあとに続く凛の言葉はなんなのか。いつのまにか部屋はシンとなり、凛がなにを言うのか、この部屋にいる皆が見守っていた。


「_____リア充だよね」


凛はこの単語を、いつかのタイミングで使ってみたいと思っていた。そして、絶妙のタイミングでねじ込んできた。


「ぶぶっ」


初めに沈黙を破ったのは、インテリ男子、小松だった。


「ウケるっ、胡桃沢さん」


小松はゲラゲラと笑い、持っていたグラスをテーブルに置いてまで笑った。


「すげー、小松が爆笑してる……」


そんな小松のことを、凛以外の四人は物珍しいものでも見るような目で見ていた。






「この中で、小松さんだけが彼女いるんですよ」


と、程よく酔っ払い饒舌になった新山が話し出した。


「しかも遠距離。十年愛!」


素直に、すごいと凛は思った。


「高校の同級生だってよ、相手」

「違うって、後輩だろ」

「え、先輩じゃなかった?」


と、みんな小松の彼女のデータはあやふやなようだった。


「……高校じゃなくて、中学の同級生なんだけど」


ボソッと小松は呟くが、あまりにも小声なため誰の耳にも届かない。けれど小松の隣にいた凛の耳には届いた。


「素敵だと思います。十年愛だなんて」


凛はほうっとため息が漏れるようだった。


そんな少女漫画みたいな、ドラマみたいな恋愛が実在するなんて、と。





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