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初花凛々
第26章 郷愁の想い
「……ひっ……くっ……」


知らないうちに溢れていた涙は、冷たい雨と同化する。


震える指で凛は携帯電話を操作したが、麻耶の連絡先を知らないということを思い出した。


「麻耶ぁ……」


凛は途方に暮れた。


一人でいたくない。けれど実家に戻る気はない。


麻耶に会いたいけれど、会う術がわからない。


こんなに冷たい雨の中、コートも身に付けず彷徨う凛は異様だった。


「すみません。本日満室となっておりまして」

「……そうですか……」


三軒回ったホテルは、全て満室だった。


仕方なく駅にも来てみたが、帰ろうにも東京行きの新幹線は早くて明日の始発。


_____寒い


凛はぶるっと震えた。


寒いに決まっている。こんな冬を予感させる日に、薄着で彷徨って。


_____ロクでもない男に決まってる


凛は悔しかった。


麻耶のことをそんな風に言われて、悲しくて、辛くて、苛立って。


涙が止まらなかった。





















「_____ 凛?」


知らず知らずのうちに、凛は眠ってしまっていた。


起こされて初めて、眠っていたことに気付く。


「え……麻耶?」


夢かと思った。


なぜここに麻耶がいるのか。


連絡したわけでもないのに、なぜ。


「今、接待終わってホテル戻るところ。凛は何でここにいるの?」


麻耶もまた驚いていた。実家で家族団欒を楽しんでいるはずの凛が、なぜここで眠りこけているのか、と。


「麻耶……」


凛はホッとしたのか、それとも先ほどの父親の言葉を思い出したのか、自身でもわからないが麻耶の顔を見ていたら再び涙が溢れた。


「ダメだった……」

「え?」

「もう向き合えない……向き合うつもりもない……!」


凛はわあわあと声をあげて泣いた。


電車から降りたばかりで、まだ雨に濡れていないはずの麻耶のスーツは濡れた。


涙の雨で、濡れた。


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