この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
初花凛々
第26章 郷愁の想い
大地はいつもよりも早く帰宅したらしい。
普段は23時過ぎ、はたまた徹夜が当たり前だが、今日は20時に帰宅した。
それはきっと久しぶりの妹の帰郷に合わせてくれたのだ、と凛も気付いていた。
「乾杯」
四人でテーブルを囲み、ご馳走を食べた。
「このワイン美味しい」
「お兄ちゃんも好き?」
「割と好きかも」
「よかった」
実家の空気は合わないと思いつつも、何年ぶりかの家族団欒はやはり苦痛なものではなかった。
そう、父親の一言が投下されるまでは。
「……凛、あの男は一体誰なんだ」
ワインが空になったところで、それまで無言だった父が唐突に口を開いた。
「へ?」
「見たんだよ。今朝、駅で」
「え……」
まだ状況を掴めない凛は、何のことかと頭を捻る。
「始発で来るって言うから、お父さんと二人で駅で待ってたの」
言葉足らずな父をフォローするかのように、母が口を開く。
「人前で何をしてるんだ、おまえは」
「……は?」
凛は記憶を辿る。
あの男、というのは麻耶のことだろう。けれど父親にこんな風に責められるようなことを、自分はしたのだろうか、と。
「いかにも軽そうで、どうせ口もうまいんだろう?女の敵みたいな男に騙されるな。ロクでもない男に決まってる。おまえには、もっと_____ 」
_____凛には後悔して欲しくないから
_____これやるよ。パワーストーン買えなかったんだろ
今、凛の心に響くのは、鬼のような顔を浮かべた父親の言葉ではない。
凛を励まし、そして、力をくれた_____
「うるさいっ!」
凛は叫んだ。
躊躇せずに、そんな言葉を父親にぶつけた。
「麻耶のこと知らないくせに!悪く言わないでよ!」
それには父親も、そして母親と大地も驚いた。
「……嫌い」
凛はもう、止まれないと思った。
「お父さんなんか……大っ嫌い!」
凛はまだ荷造りを解いていないバッグを手に、コートもマフラーも忘れて実家を飛び出した。
冬の入り口がもうすぐそこまで来ている。
外はいつのまにか雨が降っていた。
今にもみぞれになりそうな、凍てつくほどに冷たい雨が。
普段は23時過ぎ、はたまた徹夜が当たり前だが、今日は20時に帰宅した。
それはきっと久しぶりの妹の帰郷に合わせてくれたのだ、と凛も気付いていた。
「乾杯」
四人でテーブルを囲み、ご馳走を食べた。
「このワイン美味しい」
「お兄ちゃんも好き?」
「割と好きかも」
「よかった」
実家の空気は合わないと思いつつも、何年ぶりかの家族団欒はやはり苦痛なものではなかった。
そう、父親の一言が投下されるまでは。
「……凛、あの男は一体誰なんだ」
ワインが空になったところで、それまで無言だった父が唐突に口を開いた。
「へ?」
「見たんだよ。今朝、駅で」
「え……」
まだ状況を掴めない凛は、何のことかと頭を捻る。
「始発で来るって言うから、お父さんと二人で駅で待ってたの」
言葉足らずな父をフォローするかのように、母が口を開く。
「人前で何をしてるんだ、おまえは」
「……は?」
凛は記憶を辿る。
あの男、というのは麻耶のことだろう。けれど父親にこんな風に責められるようなことを、自分はしたのだろうか、と。
「いかにも軽そうで、どうせ口もうまいんだろう?女の敵みたいな男に騙されるな。ロクでもない男に決まってる。おまえには、もっと_____ 」
_____凛には後悔して欲しくないから
_____これやるよ。パワーストーン買えなかったんだろ
今、凛の心に響くのは、鬼のような顔を浮かべた父親の言葉ではない。
凛を励まし、そして、力をくれた_____
「うるさいっ!」
凛は叫んだ。
躊躇せずに、そんな言葉を父親にぶつけた。
「麻耶のこと知らないくせに!悪く言わないでよ!」
それには父親も、そして母親と大地も驚いた。
「……嫌い」
凛はもう、止まれないと思った。
「お父さんなんか……大っ嫌い!」
凛はまだ荷造りを解いていないバッグを手に、コートもマフラーも忘れて実家を飛び出した。
冬の入り口がもうすぐそこまで来ている。
外はいつのまにか雨が降っていた。
今にもみぞれになりそうな、凍てつくほどに冷たい雨が。