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初花凛々
第26章 郷愁の想い
大地はいつもよりも早く帰宅したらしい。


普段は23時過ぎ、はたまた徹夜が当たり前だが、今日は20時に帰宅した。


それはきっと久しぶりの妹の帰郷に合わせてくれたのだ、と凛も気付いていた。


「乾杯」


四人でテーブルを囲み、ご馳走を食べた。


「このワイン美味しい」

「お兄ちゃんも好き?」

「割と好きかも」

「よかった」


実家の空気は合わないと思いつつも、何年ぶりかの家族団欒はやはり苦痛なものではなかった。


そう、父親の一言が投下されるまでは。


「……凛、あの男は一体誰なんだ」


ワインが空になったところで、それまで無言だった父が唐突に口を開いた。


「へ?」

「見たんだよ。今朝、駅で」

「え……」


まだ状況を掴めない凛は、何のことかと頭を捻る。


「始発で来るって言うから、お父さんと二人で駅で待ってたの」


言葉足らずな父をフォローするかのように、母が口を開く。


「人前で何をしてるんだ、おまえは」

「……は?」


凛は記憶を辿る。


あの男、というのは麻耶のことだろう。けれど父親にこんな風に責められるようなことを、自分はしたのだろうか、と。


「いかにも軽そうで、どうせ口もうまいんだろう?女の敵みたいな男に騙されるな。ロクでもない男に決まってる。おまえには、もっと_____ 」


_____凛には後悔して欲しくないから


_____これやるよ。パワーストーン買えなかったんだろ


今、凛の心に響くのは、鬼のような顔を浮かべた父親の言葉ではない。


凛を励まし、そして、力をくれた_____


「うるさいっ!」


凛は叫んだ。


躊躇せずに、そんな言葉を父親にぶつけた。


「麻耶のこと知らないくせに!悪く言わないでよ!」


それには父親も、そして母親と大地も驚いた。


「……嫌い」


凛はもう、止まれないと思った。


「お父さんなんか……大っ嫌い!」


凛はまだ荷造りを解いていないバッグを手に、コートもマフラーも忘れて実家を飛び出した。


冬の入り口がもうすぐそこまで来ている。


外はいつのまにか雨が降っていた。


今にもみぞれになりそうな、凍てつくほどに冷たい雨が。

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