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初花凛々
第27章 小春日和
「だったら、凛がお嫁に行ったらほとんど会えなくなるじゃないか……」


父親は落胆した声でそう言った。


「ところで麻耶くんは、凛のどんな所が良いと思ったんだ?」


凛が油断して羊羹を頬張っている隙に、とんでもない質問を父親は麻耶にした。


_____いやいや、だからなんで恋人の設定になってるの


凛は心の中でツッコミを入れた。


けれども麻耶は、何事もなかったような顔で。


「……自分が濡れても、他人に傘を差し出すようなところです」


これは以前も聞いたな、と凛は思った。


「自分に得がなくても、頼まれごとを嫌な顔せず引き受けて。礼を言われてもポカンとしてるんですよ。だから無意識に周囲を救ってくれています。それって、凄いことだと僕は思います」


凛は麻耶の言葉を聞き、恥ずかしくて、照れくさくて。なんだか俯いてしまった。


「それに、彼女は周囲にとても愛されています。それは年齢関係なく。僕もその一人ですね」


今度こそ凛は顔が真っ赤になり、もう顔を上げられないと思った。そんな凛を他所に、麻耶は淡々と話し続ける。


「頑張り屋で、真っ直ぐで。そんな凛さんといると、自分も頑張らないとって思えます。素顔を知るたびに、惹かれていきます」


凛はぎゅうっと掌を握りしめた。これは麻耶の本心かはわからないが、凛の心に染み入り、思わず涙が溢れそうで……凛は目をきゅっと瞑った。



「凛」


けれど父親に名を呼ばれ、渋々顔を上げざるを得なくなった。


「麻耶くんがちゃんと見ていてくれて、幸せなんだな。凛は」


父親は微笑んだ。


それは間違いないと凛は思い、大きく頷いた。











新幹線の時間が迫り、帰宅しなければならない時間になった。


「泊まっていけばいいじゃないか」


そんな事を言う父親に、家族も、麻耶も、凛も。みんなで笑った。
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