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初花凛々
第28章 萌し
新幹線の中、トンネルをくぐるたびに増える高層ビルを凛はぼうっと窓から眺めていた。


左手が熱い。


麻耶の手がそっと重ねられている手が、ぬくぬくと。


隣に座る麻耶は、宮城を出発して二駅ほど通過した辺りで眠ってしまった。


凛も眠ろうと思うのだが、昨日からの出来事が頭を過ぎり、睡魔がやってこない。


_____素顔を知るたびに惹かれていきます


麻耶の言葉。例えそれが本心じゃなかったとしても、凛は本当に嬉しかった。












「……麻耶、そろそろ着くよ」


終着駅、東京。そのアナウンスが流れて、凛は麻耶を起こした。


「……うん」

「降りるから、起きて」


麻耶は目を擦り、身を捩った。寝起きの猫のような、赤ちゃんのような仕草をする。


それを見ていた凛は思わず、可愛いと思ってしまった。


「……!」


油断していたら、麻耶に口付けをされた。


「ん、麻耶……」

「昨日からしてなかったなって思って」


実は凛もそう思っていた。


昨日からいろんな事があって、忙しくて、二人は口付けすらしていなかった。


麻耶の唇は優しく重ねられていたかと思うと、回を増すごとに深くなる。


麻耶の舌が凛の唇を割って入り、口内を刺激した。


凛もまた、麻耶の舌を逃すまいと必死に絡める。


麻耶の口付けは、凛のあらゆる感情を麻痺させる。麻耶の唇に、何か仕込まれているとしか思えない。


凛は身体を火照らせた。


駅への到着が近いため席を立つ人が増え、そのため二人は口付けを中断する。


「あのね、麻耶」


たくさんの伝えたい思いが凛の心に渦巻いている。それを全て伝えるのには、どの言葉がいいかと凛は迷う。


けれどやはり、単純でありきたりな言葉しか浮かばない。


_____ありがとう


それでは伝えたいことの半分も伝わらないと凛は思った。


きっとそんな風に思いを巡らせている凛のこともお見通しであろう麻耶は、凛の顔を覗き込み、微笑む。


凛の大好きな、子どものように、お日様のような笑顔で。



人はこんな時、駆け引きとか、見栄とか、意地とか。そんなものは皆無になるのかもしれない。


「好き」


凛は麻耶に向けて、そんな言葉を口にした。
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