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初花凛々
第28章 萌し
凛は慌てた。


自分で口を滑らせておきながら、何て事を言ってしまったのか、と。


_____好き


その二文字には、二文字以上の意味が含められている。


男女のそれでよく用いられるその単語だが、凛はそれとして使ったわけではない。


どうしてそんな事を口走ったのか自分でもわからないけれど、その言葉の重みを知っている凛はとにかく焦った。


その言葉は何となくだけれど、麻耶は嫌がる気がする。そう思うから。


自由奔放な麻耶にとって、女性からのその言葉は、ただの鎖でしかないようにも思える。


凛はハラハラしながら、麻耶の次の言葉を待った。


一体どんな言葉が返ってくるのか。胸が違う意味で高鳴る。


もし、迷惑だと言われたのならば、急いで否定しようと思った。今の言葉は男女のものではなく、人として。そう、凛は人として麻耶が好きだというのは本当だから。否定というか、言い訳というか。凛は一瞬でそんな事を思った。


「_____え?今、なんて言った?」


麻耶はそう言うと、耳から何かをスッと取り外した。


派手なショッキングピンクの線_____そう、麻耶はイヤホンをして、携帯電話から流れる音楽を聴いていたのだ。


凛はホッとしたような、用意していた言葉が無駄になり残念なような、不思議な気持ちになり曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。


「ねぇ、凛。なに?」

「ううん、なんでもない。ほら、私たちも降りよう」


凛は麻耶を促し、既にホームへと到着した新幹線から降りた。


店頭から流れる賑やかな音楽、様々な人が行き交う交差点。


あんなにも恋しかった雑踏を見て、初めて凛は何か寂しさのようなものを感じた。


それはきっと、凛の故郷へ対する想いが変わったから。


ずっと疎ましかった故郷が、たった今日から愛しく思えるようになったから_____


そう思えるようになったのは、今隣にいる麻耶のおかげ、他ならない。と凛は思った。



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