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初花凛々
第30章 愛の戯れ
凛の告白を聞き、麻耶は固まっているようにも、動じていないようにも見える。


わからなくて、凛は麻耶の顔をジッと見たが、やはりわからない。


こんな時麻耶だったら、凛の気持ちはお見通しなのにと、凛は悔しくもあった。


「……好き?」


麻耶は、聞き返してきた。


それに対し凛は、そうだ、と言った。


こんな風に、想いを伝えるなんて凛にとって初めてのこと。


人は誰かを想う時、それこそ、駆け引きなんか出来ない。計算も何も出来ず、口から溢れ出るものなんだと凛は知った。


圭吾や西嶋に恋していた時とは比べものにならない、熱さがそこにはあった。


「……こんな節操も何もない、俺のことを?」

「うん」


凛には迷いなんてものは、微塵もなかった。麻耶のことを節操がないと思ったことさえもなくて。


「……むしろ、麻耶と過ごして好きにならない人っているのかな?」


凛はそう思っていた。


麻耶と過ごすと楽しくて、心から笑えて。


それに凛の悩みだって丸ごと受け止めて、解決へと導いてくれる。


あとは、あとは。


たくさんありすぎて、わからなくなるほどだった。


「……馬鹿だな」


麻耶はまた、その台詞を口にする。


凛は麻耶のその台詞も好き。


なんだか、親が子に向けて、愛情たっぷりに言っているようで。


「なんかうまく言えないけど。麻耶と出会ってから、私は自分のことも、好きになれた」


どうしようもなく辛い時。隣には必ず麻耶がいてくれた。


「私本当は泣き虫じゃなかったの。でもなんでだろ。麻耶の前では、子どもみたいに泣いちゃうの」


それは凛自身も理由はわからなかったけれど、今、わかる。


凛は麻耶の前だと安心しきっていたのだ。


どんなに泣いても麻耶はそれを怒ったりしない。


「自分が濡れても傘を差し出す。それって麻耶もだよ」


麻耶は自身の服が濡れてしまうまで、泣きじゃくる凛を抱きしめてくれた。


そんな麻耶のことを、好きにならない訳がない。


凛は必死に伝えた。


途中で、自分でも何を言っているのかわからなくなるくらい、伝えた。


麻耶が好き。


その後の関係を求めるでもなく、ただ。


全てをひっくるめて、君が好きなんだ、と。
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