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初花凛々
第31章 花笑み
その日から、凛と麻耶は年末年始の休暇だった。


別に一緒に過ごそうと決めたわけではないが、二人はごく自然に、その時を共にした。


「そういえば、連絡先。今日こそ交換しよ」

「今日こそね」


麻耶と凛は朝目が覚めると、そんな会話から始まる。


けれども次から次へと色んな話に転がって、結局交換するのを忘れてしまう。


「また忘れちゃったー」

「いいじゃん。明日も一緒にいるし」

「ん、そうだね」


凛は幸せだった。


泡沫と思われた時間は、より永遠に近づいて行くような気がして。


「ていうか、キスもエッチもしてんのに連絡先知らないとかウケるんすけど」

「ほんとにそうだね」


けれども二人は今夜もまた、交換するのを忘れてしまう。


携帯電話を弄る時間すら惜しいというように二人は口付けを交わす。


互いの存在を確かめるような、そんな口付けを。






照明代わりにつけていたテレビから、今流行りの音楽が流れる。


透き通るような女性ボーカルの声と、早口でリズミカルな男性ボーカルの声が、メロディに乗って見事にマッチしている。


そんな素敵なメロディを耳に受けながら、凛は麻耶の舌を味わっていた。


"この恋は始まったの?"


そんな歌詞が耳に届いて、凛はハッとした。


_____これ、私の気持ちみたい。







「So'flyの歌だよ」


と、麻耶が教えてくれた。


「今流行ってるの?」

「さぁ、どうだろ。でも最近お客さんで、好きって人いたなぁ」


題名はFirst kiss。


自分と重なりすぎて、凛は驚いた。


「ねぇ、麻耶!これ!私好き!」

「そうなの?」


麻耶は早速、凛が好きだというその曲をパパッと探し出し、パソコンから流した。


よくよく聞くと、その歌詞は、片想いをしながらも両想いの二人の歌だった。


けれども麻耶とそれを聴きながら、凛は焦った。その歌詞に。


まるで私たちの関係はどうなの、と、麻耶に問いかけているみたいだったから。


「……いい歌だな。俺も好き」


焦る凛を他所に、麻耶はそんなことを呟く。


"この恋に続きはあるの____?"


知りたい。でも、知る必要もない気がする。


麻耶の穏やかな横顔を眺めて、凛はそう思った。
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