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初花凛々
第31章 花笑み
「どっか行く?」
「え?」
「明日から、仕事だし。決起のために」
麻耶は訳のわからない事を並べる凛の背中を押して、出かけるよう促した。
凛は勿忘草で食べた菓子のように、膝丈の白いニットワンピースを着た。そしてその上に、先ほど見た夕暮れよりももっと紅い色のカーディガンを羽織った。
「凛の髪、触ってもいい?」
「う、うん」
麻耶は凛の髪を、そっと櫛で梳かしてゆく。
「男子の永遠の憧れ、ポニーテール。プライベート向けに少し緩めに、可愛く仕上げます」
などと言いながら、麻耶は凛の髪をひとつに束ねた。それも編み込みも交えて。
「なにー!?麻耶ってこんな事も出来るの!?」
「妹が小さい頃、よく結わされてたから」
「すごい!」
今日は麻耶の器用さをふたつも知れたことに、凛は嬉しくなった。
「可愛い〜うちの凛ちゃん」
仕上げに、蝶の形をした金色のピンで留めて完成。その完成度の高さに、凛の気分も自然に上がってゆく。
「どこ行くの?」
凛はルンルンと弾む息を抑えながら、隣を歩く麻耶の横顔を眺めた。
さっきまでの憂鬱なんかどこへ行ってしまったのか、冬の空はそんな凛を見て笑うように雪を降らせた。
「凛、知ってる?雪がこうして舞う速さと、桜が舞い散る速さって同じなんだって」
「知らなかった」
チラチラと、空から雪はゆっくりと舞い降りる。
地面に着くと同時に、じわりと消える。
「消えちゃうけど、だからこそ綺麗なのかもね。桜もそう。散ってしまうから____ 」
凛は言いかけて、止まった。
それはまるで今の私たちみたいだと、凛はまた卑屈な方へと考えを巡らせてしまった。
この時間も、雪のように消えてしまうの____?
「でも心にはいつまでも残るよ」
「え?」
「目に見えるものだけが全てじゃない」
凛はハッとする。
いつもとんでもない方向へ飛んで行く凛の思考を、こうして麻耶は引っ張ってくれる。
こんな考え方もあるのかと、凛は目から鱗だった。
「うん。そうだよね」
凛は思い直す。
この、チラチラ舞う雪も。
一瞬で消えたとしてもそれは幻ではないのだ、と。
凛は微笑んだ。花のような笑顔で。