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初花凛々
第33章 茜さす
屋根を打ち付ける音で目が覚めた。


最初はパラパラと柔らかい音だったが、次第にザアザアと、バケツの水でもひっくり返したような音に変わっていく。


凛は目を瞑ったまま、その音に耳を傾けていた。


_____そういえば、朝の天気予報で、今夜は雨が降るって言ってた


夢と現実の間を彷徨いながら、凛の右手をそっと握る麻耶の手に気が付いた。


その手に力は入っていなく、ただ重ねられるように握られている。


_____あったかい


麻耶の手は、いつも温かい。


ぬくぬくと、温泉のような心地よさを感じる。


その手から、そして二人の体温で温まった布団から伝わる温もり。


冬の雨は、凍てつくように冷たい。けれどもここはこんなにも暖かい。凛は麻耶の手をキュッと握った。




「……凛?」


凛は無意識に麻耶の手を強く握って、起こしてしまった。


「……ごめん」


麻耶はうわ言みたいに、そんな言葉を呟いた。


「ごめんって何」


凛はその言葉に、嫌な予感がした。それはきっと先程のさくらとの会話を思い出したから。




_____麻耶だけは、やめた方がいい。


ふと、凛の頭に、先ほどのさくらとの会話が蘇る。


周囲が凛に忠告する。彼はやめておきなさい、と。


けれども凛には、その理由が見当たらない。


_____好きになればなるほど辛くなるよ


まだ恋愛の世界に足を踏み入れたばかりの自分には、わからないのかもしれないけれど。




_____凛、俺に何か出来ることはない?



もう消えちゃいたいくらい辛かったときも、泣きたい夜も。救ってくれたのは麻耶だった。


初めてのキスもSEXも、麻耶がいいと望んだのは凛自身。


だから麻耶が謝る必要なんて、少しも無い。








「凛まだ慣れてないのに、毎日ヤッてるし……ごめん」

「えっ」

「え?」

「そっちのごめん!?」


麻耶の"ごめん"の理由に、凛は拍子抜けした。








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