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初花凛々
第36章 桜雪
年が明け、1ヶ月が過ぎようとしていた。


休日だったその日、凛は麻耶と待ち合わせをしていた。以前話していた、泡盛三昧沖縄フェアに行く為に。


待ち合わせ場所は、凛たちの会社があるオフィス街のすぐ横に伸びる大通り沿いの公園。


_____噴水の前で、19時。


凛は楽しみすぎて、麻耶との待ち合わせよりも随分早く到着してしまった。


そこの噴水は待ち合わせに多く利用されているらしく、美しく着飾った女性や、時計を何度も確認する男性の姿が多く見られた。


凛もこの日は、目一杯のお洒落をしてきた。


念入りにシャワーを浴びて、隅から隅まで磨いたし。それに、麻耶に教えて貰った髪のアレンジも、手際よくこなせる様になった。


少しでも麻耶に可愛いと思われたくて。凛は頑張った。


「……雪」


凛は思わずひとりごちた。


地元宮城では当たり前だった雪も、東京で見ると特別なものに感じる。


街を綺麗に彩る、飾りにすら思えるほどに。


ひらひら


ゆっくりと舞い降りる白い雪。


_____桜の花びらが舞い散る速さと同じなんだよ


その、春に咲く桜も。麻耶の隣で見たいと凛は思った。


ぼうっと空を見上げる凛の肩に、ポン、と手が置かれた。


凛は、待ちわびていた麻耶の登場に、心を弾ませながら振り向いた。


「えっ」


そこで凛は目を丸くさせた。


振り返ると、そこには見覚えのない男性が立っていたからだ。


「これ、落ちましたよ」

「ありがとうございます……」


男性が凛に差し出したのは、今日の雪みたいに白いハンカチ。


「ごめんなさい、これ私のじゃないです」

「そうなんですか?すみません」

「いえ」


見ず知らずの人の落とし物なんか、知らないふりをして通り過ぎる人が多いこの都会の街で。なんて親切な人なのかと、凛は感心してしまった。


これどうしよう……と、白いハンカチを片手にその男性は困っているようだった。


「あそこのベンチに置いておけば、もしかしたら持ち主が探しに来た時見つけやすいかもしれませんよ」


思わずそうアドバイスすると、その男性は、「なるほど。頭が良いですね」と、笑顔を覗かせた。


その笑顔に、思わず凛も笑顔を返した。
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