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初花凛々
第42章 桜色の川で
足元がふわふわとするその感覚を凛は感じて、初めて麻耶と口付けを交わしたときとよく似た感覚だと思った。


そんな幸せな余韻を残しながら桜を眺めた2人。


プロポーズのあとに流れる甘い空気。その空気の中で交わされる会話は、普段と何ら変わりないようにも思えるけれど、違う。


凛は目に映る世界が急に鮮やかに色づいたように感じる。


枝垂れ桜は先ほどよりも白く桃色な気がするし。街行く人々も皆楽しそうに見える。


プロポーズを無事に終えた麻耶はホッとして身体の力が抜けた。


そして2人は、ディナーへと向かう。


麻耶はスーツだったし、凛もフォーマルなワンピースだからどこへでも行ける。例えドレスコードが指定されている店だって。


けれども2人は。


「乾杯」


芋焼酎と、香ばしい焼き鳥と。


赤提灯が煌々と灯る焼き鳥屋で乾杯をした。


なんとも2人らしい空気が流れている。


凛は嬉しかった。


凛と四季折々を感じていきたい麻耶も。こうして気取らない空気を喜べる凛も。


歩んできた道は全くの正反対だった2人が、これからは同じ道を歩く。手を取り合って。


凛は芋焼酎を嗜みながら、目の前にいる麻耶に見入った。





「……麻耶ってさ」

「ん?」

「かっこいいよね」


いきなりの凛の言葉に、麻耶は漫画のワンシーンのように飲んでいた焼酎を噴き出すところだった。


「な、なにを」


こんなにも簡単に麻耶を動揺させるのは、後にも先にもきっと凛だけ。


「……凛もさ」

「へ?」

「可愛いよ」

「なっ、なに」


甘ったるい。こんな2人を、バカップルだと周囲は笑うかも。けれども2人は本気で、そう思っている。






「これから、よろしくお願いします」


麻耶は凛に向かい、深く頭を下げた。


そんな麻耶の姿を見ていたら、なんだか凛は、泣きそうになった。


幸せだと人は涙するのだということを、凛は麻耶と出会い初めて知った。
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