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初花凛々
第42章 桜色の川で
「風邪、移ってない?」


_____は?


「ん?」


凛はよほど可笑しな顔をしていたのだろう。麻耶は凛の顔を見て、不思議そうにしていた。


「か、風邪?」

「うん」


_____昨日、たくさんキスしちゃったし


と、麻耶はバツが悪そうに視線を彷徨わせながら、もう一度「ごめん」と呟いた。


「もうっ!麻耶ぁ」


凛は、先ほど決めた覚悟が、簡単に打ち砕かれてしまった。


そんな凛を他所に、麻耶は穏やかに景色を見ていた。



「凛、見て。桜が散ってる」


麻耶の胸にドン、と突き出されていた凛の手は、そっと繋がれて。


振り返ると、風に揺られた枝垂れ桜から、ひらり、ひらり。


舞い落ちる花弁。


「……すごく綺麗。前に麻耶が教えてくれた通りだね。まるで穏やかな日の雪みたい」


晴れた日に降る、雪のように。


寒さに凍てつきながら、雪の結晶が踊るように。


「覚えてたんだ」

「うん。あの時から、桜を見るのを楽しみにしてたんだ」


繋がれている手は、温度が溶け合って気持ち良い。












「……なんつーかさ、上手く言えないけど」


まるで雪のような、白い花弁が風に揺れている。


「凛とこうやって桜見て、綺麗だなって言い合いたいんだよ。雨の匂い感じたり、夏はあっちぃよって言い合ったり。凛はあれだろ、赤くなった紅葉見て、焼き芋が食べたいとか言うでしょ」

「……言うかもしれない」

「やっぱり」


麻耶はケラケラと面白そうに笑った。


焼き芋美味いもんなぁって、でも後始末が大変そうだよなぁと、笑いながら枝垂れ桜を見ていた。


「……ねぇ、麻耶」

「ん?」

「私昨日の返事まだしてない……」


そこで麻耶は、ハッとした顔をした。


こんな大事な場面で、相手のプロポーズの返事すら聞かぬまま。なにを浮かれているのかと、麻耶は一気にテンションがだださがりしてしまう。


「ぷっ」


そんな麻耶を見て、凛は可笑しくて笑う。


「……なに笑ってんの」

「いやー、もう、さ」


_____嬉しくて、楽しくてたまらない。


凛は麻耶にそう打ち明けた。


「それって、返事は」

「……よろしくお願いします」








2人は今日、婚約をした。


雪のように桜の花弁が舞う、木の下で。


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