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初花凛々
第6章 恋水
テレビ画面ではベッドシーンが終わり、今度は清々しいほど……むしろ、白々しい演技の男女が愛想笑いを浮かべている。


「……ね?須田くん、面白いでしょう?」


そんな凛の問いかけに、須田は首を横に振る。


「くるちゃんの方が面白いよ」


そう言って、ククッと笑って。


現実の恋愛を知っている須田にとって、テレビの恋愛ドラマはまるで嘘くさいと思った。


それよりならば、一喜一憂しながら楽しんでいる凛を眺めた方が、よっぽど面白いのだと、須田は言った。


「……そっかぁ。本当の恋愛はもっとすごいんだね……」


想像すら出来ない凛は、ため息を吐いた。


いつか自分もこのドラマのように、いや、それ以上に燃え上がる恋をしたりするのだろうか。


誰かを想い涙を流したり……。


そんな恋焦がれる自分はまるで想像出来ない。


余裕の表情を浮かべる須田を眺め、凛はそんなことを思った。









「……出来るよ」


須田がポツリと呟く。まるで、凛の心を見透かすかのように


「え?」

「くるちゃんは人の気持ちがわかる子だから。きっと素敵な恋愛が出来ると思う」


そんなことを言う須田はまた、母親のような、親友のような眼差しで凛を見た。


「……恋水、って言うんだって。恋して流す涙のこと。綺麗だよね、日本語って」

「そうなの?知らなかった。須田くんは、流したことがあるの?」


恋水


とても素敵で、美しい響きだと凛は思った。





「……ないよ。ただの一度も、ない」







まだ、恋愛の一欠片も味わったことのない凛。


そんな自分が、この恋水を流す時が来るだなんて。


この時の凛には、まるで知る由もない。
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