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初花凛々
第11章 夏めく
「くるちゃん先輩……そろそろやめた方が……」

「そう?大丈夫だよ。ジュースじゃない?これ」

「いえ、立派なお酒です」


涙によって奪われた水分を補充するかのように、凛は酒を流し込んだ。
クセのある焼酎を好む凛にとって、アリスの国の酒は見た目にも可愛らしいものばかりで、到底酒だとは思えない。


けれどどんなに甘くても、新山の言うようにそれは酒だ。ひとくち、またひとくちと飲むたびに、確実に凛は酔わされて行く。


あっという間に凛のグラスが空いていく様を、新山はハラハラしながら見守っていた。
凛は次は何を飲もうかと、古めかしい辞典を真似たドリンクメニューを開いた。


"時を止める魔法のミント"


凛はそのメニューをそっと指でなぞり、次はこれを飲むことに決めた。


「先輩……」

「大丈夫だよ」


心配する新山を他所に、凛はそれを注文した。


_____全然酔ってない。まだまだ飲めそう。


甘い味のせいか、凛はいつもの倍の倍飲んでいるが、酔っている気がしなかった。それは気のせいだと、まだ凛は気付いていない。


時を止める魔法のミントと称し、運ばれてきたのはピーチモヒート。淡い桃色のしゅわしゅわとしたあぶくがグラスの底から上に向かって上りきり、パチンと弾ける。その刺激で、木の葉のように水面を漂う小さい緑がゆらりと揺れて。


「_____美味しい」


時を止める魔法のミントを凛は口にした。爽やかなミントが鼻からぬけて、舌には桃の甘さが微かに残る。


_____これは本当に時を止める魔法なのかも……


凛はそれを口をする度に、目の前がぼやけるような、頭の中の思考がストップするような、不思議な感覚に襲われた。


新山が席を外し、誰かに電話をかける後ろ姿を見ながら


凛はそっと、目を閉じた。




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